蓄電池に関する日独共同研究―新プロジェクト始まる

2022年1月1日、二次電池分野で長年にわたり成果を挙げてきた日本とドイツが、新たに4つの共同研究プロジェクトを開始しました。非競争領域におけるこれらのプロジェクトでは、固体電池を中心としたポストリチウムイオン技術分野の新材料開発や、構造解析・セル内プロセス解明のための新規かつ高度な分析手法の開発に取り組みます。これにより日独の専門的知見が相互補完されるとともに、若手研究者間の継続的交流を通じ、研究課題の理解が質的・量的に向上することが期待されます。

このプロジェクトはドイツ連邦教育研究省(BMBF)と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成を受けて実施されます。

各プロジェクトの概要は次のとおりです。

AReLiS-2: リチウム硫黄電池およびリチウム金属硫化物電池の正極および電解質反応の解析2―固体電解質

正極材料としての硫黄は蓄電容量が大きく、原料は安価、環境負荷も低いうえ、世界各地に埋蔵されているという特徴があります。しかし未だに電池セルの経年劣化が激しく、実用化には至っていません。リチウム硫黄電池の寿命向上には、電解質や電極のカスタマイズ、高分子電解質や固体電解質の使用など、さまざまなアプローチが試みられています。これらのアプローチの基本原理は、液体電解質を用いた正極の反応に着目した日独共同プロジェクトAReLiSで研究されました。リチウム硫黄電池に純度の高い高分子電解質、固体電解質、ハイブリッド電解質を使用すれば、長期安定化が大いに期待できます。そこで今回のAReLiS-2では、硫黄を含む正極および高分子電解質、固体電解質、ハイブリッド電解質で機能する電池の、基本的なメカニズムの特性解明に焦点を当てています。AReLiS-2に材料研究、セル製造、機器分析化学に関する幅広い経験が結集すれば、これらの重要なプロセスに関する知見が得られ、次世代蓄電池システムの応用に道が開かれることでしょう。

パートナー:
早稲田大学 逢坂教授
ミュンスター大学(WWU)ヴィンター教授

AReLiS-2プロジェクトで使用される材料と実験用セルの一例。

SolidSafe: 固体電池の安全性試験

電池は損傷や熱により発火や爆発に至ることがあります。固体電解質を用いたリチウムイオン電池は、液体電解質を用いたリチウムイオン電池に比べて安全リスクが低い一方、残余リスクの全容や電池内部のメカニズムについてはまだ十分に解明されていません。このため日独共同プロジェクトSolidSafeでは、さまざまな材料から固体電池セルを作製し特性評価を行うとともに、多様な動作条件下で幅広く安全性試験を実施します。実験データは中央データベースに保存したうえで3Dシミュレーションによって固体電池の損傷、過充電、過熱時の内部プロセスを詳細に解明するため、手間のかかる安全性試験を減らすことができます。

パートナー:
京都大学 安部教授
フラウンホーファーICT テュプケ教授

温度・電圧計測・ガス分析機能付オートクレーブを用いた安全性試験の準備

InCa²: 全固体複合正極の界面―保護膜の性能向上と理解の促進

液体電解質を用いたリチウムイオン電池の材料・プロセス技術は確立されていますが、固体電池の実現にはまだ相当の研究を要します。いわゆる硫化物固体電解質は、その高い伝導性から高性能電極材、具体的には正極複合体として有望視されていますが、安定性が未だ不十分です。そこで日独共同プロジェクトInCa²では、正極材料の安定性向上に寄与する機能付与的塗工を開発し、個別に分析しながら系統的解析を行うとともに、正極層の厚みに加え、正極複合体のいわゆる充填率や、それが電池セルの容量と性能に与える影響についても詳細に分析することで、正極複合体内部における相互作用と経時変化を詳細かつ定量的に理解し、固体電池の高性能化・長寿命化に繋げます。InCa²は上記の取り組みを通じ、電気自動車への搭載に大きな可能性を持つ固体電池の更なる開発に学術面で貢献します。

パートナー:
東京工業大学 菅野教授
ギーセン大学(JLU)ヤネク教授

ギーセン大学物理化学研究所で固体電池の3D解析を行うフェーリクス・ヴァルター氏(左)と大野実之博士(右)

OsabanPlus: 高性能・長寿命な3次元構造負極を持つ電池表面のオペランド解析

市販のリチウムイオン電池に使われるコンポーネントは過去数十年にわたり絶えず改良されてきましたが、近年そのスピードは低下しています。これは、今使われている材料のパフォーマンスがまもなく上限に達することを意味しています。電池の性能や寿命を更に高めるには新しいタイプの電極が欠かせませんが、実用化には安定性や耐久性に関する研究開発が必要です。その一例に電極での電解液の副反応があります。電極/電解質界面のプロセスをより深く理解することは、今後の電極開発に大変重要です。

日独共同プロジェクトOsabanPlusではこのプロセスを研究し、次世代電極に関する更なる知見の獲得を目指します。いわゆる3次元構造のコンバージョン型電極に着目し、オペランド解析を用いて研究を行います。このプロジェクトで得られた知見は、性能や寿命を高める材料の活用に手がかりをもたらすことになるでしょう。

パートナー:
京都大学 安部教授
ブラウンシュヴァイク工科大学 シュレーダー教授

保護雰囲気下のグローブボックス内で作製した3次元構造ナトリウム金属正極(左)と、実験室規模の電池測定セル(右)

ご質問がございましたら、ローター・メニケン氏(駐日ドイツ連邦共和国大使館科学技術担当参事官)までお問い合わせください。

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更新日: 2022年5月17日